キャンディー・プル(Candy pull)
アルマンゾの父さんと母さんが、アンドリューおじさんの家に一週間ほど遊びに行っている間、ワイルダー家では、子どもたちだけで留守番をしていました。そのときにやってみたのがキャンディー・プルです。それは冬にするものだというイライザ・ジェインに対して、ロイヤルとアルマンゾは夏だってやって悪いはずないと言い張りました。ところが、やってみたものの、みごとに大失敗。ベタベタして歯や指や顔にくっついてしまい、子ブタのルーシーは、歯にべったりくっついて、さんざんな目にあってしまいました。
イライザ・ジェインのいうように、キャンディー・プルは冬に行うものです。そうすれば寒さでかたくなった、おいしいキャンディーが食べられます。
アリスは簡単そうにキャンディーのもとを作っていたけれども、温度によって、かたまったりかたまらなかったりするので、作る人は責任重大です。ちょっとしたコツをしらないと、うまくいかないそうで、ある人は「何度も失敗して、ようやくコツをつかんだのよ」と話してくれました。




感想
引っぱっていられるのは、気温や湿度にもよるけれども、私がやったときは一分未満でした。写真の女性は、かなりの量のキャンディーを引っぱっていますが、私が手にしたのは、キャンディー一個分の、ほんの少しの量でしたから、量によっても違うのかもしれません。指にバターを塗るのは、キャンディーがくっつかないようにするためです。
はじめはフニャフニャだったキャンディーが、ひっぱっているうちにかたまってきて、そのうち引っぱれなくなります。それにこげ茶色だったのが、だんだん金色を帯びてきて、きれいな色に変わっていきます。
さて、肝心のお味の方はどうかといいますと、素朴な味で、まあ、おいしいといえばおいしいかもしれない。でも、糖蜜と砂糖をまぜたものだから、コーヒー味やいちご味のキャンディーの方が、絶対おいしい!と私は思います。
一緒にキャンディー・プルをした子どもたちも、「おいしい」といって、何度も引っぱっていましたが、彼らは引っぱるのが面白いのであって、チョコレート味と糖蜜のキャンディーを一緒に置いておいたら、絶対にチョコレート味を選ぶと私はにらんでいます。
でも、当時は今のように甘いものをしょっちゅう食べられなかったから、アルマンゾたちには、とっておきのお菓子だったのでしょうね。それに、みんなで、引っぱりっこするのも楽しかったんだろうなって思います。私も、味そのものよりも、みんなでワイワイ言いながら引っぱっているのが楽しかった。「うまくいくかな〜」「どんな風になるのかな〜」とワクワクしながら引っぱるのがメインで、キャンディーはおまけというか、ごほうびみたいなものかもしれません。
もしも、子どもたちとキャンディー・プルをするなら、屋外の、掃除をしなくてもすむ所でやるべし。彼らは、引っぱるだけでなく、人やあらゆるものにくっつけるのも好きみたいなので。十九世紀の子どもたちも、二十一世紀の子どもたちも。
当時のキャンディーのレシピには「強火で煮る」というのもあれば、「ゆっくり煮込む」というのもあるし、十五分くら煮るというのもあれば、三時間煮詰めるというレシピもあります。レシピにかなり幅があります。レシピにそんなに差があるのは、著者が母親から受け継いだ作り方や幼い頃に食べた味を再現するように書いているからなのでしょう。当時のレシピからは、その著者の家庭の味が見えてきます。
糖蜜を煮詰める温度によって硬いキャンディーになったり軟らかいキャンディーになったりしますが、アメリカで科学が料理に取り入れられるようになったのは、十九世紀末から二十世紀初頭あたり。現代人がキャンディーのレシピを書くとしたら、おそらく科学的な説明を添えて、硬いキャンディーと軟らかいキャンディーの両方の作り方を、載せるでしょう。そうしたら、百年後の読者には作りやすいかもしれませんが、著者の家庭の味が見えてくるかどうかは「?」です。
冒頭に、キャンディ作りを何度もトライしなければならなかった女性の話を載せましたが、十九世紀のレシピがおおざっぱにしか書かれていないのも、母親と一緒に台所に立って、ちょっとしたコツを習うのが当たり前だったからなのでしょう。ほんの少し前のことなのに、その当たり前のことが抜け落ちてしまった今、私たちが、当時の味を再現するのは容易ではありません。十九世紀のレシピを読んでいると、北米の食生活の変遷が見えてきます。