ルバーブ・パイ(Rhubarb pie)
ルバーブは五月になると、たくましいくらいぐんぐん伸びて、大きな葉っぱを風に揺らしています。そんなルバーブを見ていると、「ああ、春だなあ」と感じます。北国に暮らしていると、もう春が待ち遠しくてたまらない! だから、少し早いけれど、気分だけでも春というわけで、今日はルバーブのお話です。
最近は日本でもルバーブが出回っているようで、インターネットでルバーブのヨーグルトやパイについて書かれたものを時々目にします。ルバーブは日本語でダイオウと訳されていて、セロリのように茎を食べますが、これがまた、ものすごくすっぱい! でも、とってもおいしくて、私の好きなパイの一つです。
新婚早々のローラがやらかした失敗がルバーブ・パイでした。ローラは、脱穀人たちのお昼のデザートにこのルバーブ・パイを出しました。ところが、ペリーさんはひと口味見をすると、上の皮をめくりあげ、砂糖壺に手をのばすと、砂糖をどっさりとふりかけたのです。そう、ローラは砂糖を入れ忘れたのでありました! いくらルバーブの好きな私でも、砂糖なしのルバーブ・パイには手を出したくありません。ひどくすっぱくて、顔が梅干しにでもなりそう!「最初の一口はさぞかしひどい味だったにちがいない」とローラも書いているくらいです。でも、ペリーさんは、「パイに砂糖が入っていなくても、めいめいが好きに砂糖をかけりゃ、作った人の気分を悪くしなくてすむからね」と言って、お昼が楽しくなるような話題を持ち出して、助け船を出してくれました。ジェントルマンですね。




感想
ルバーブはパイに使われることが多いせいか、「パイ・ブラント」とも呼ばれています。上にあげたレシピの著者は「イギリスではスプリング・フルーツと呼ばれていて、ルバーブよりも聞こえがいい」と書いていますが、「ルバーブ」という言葉の響きは、春らしくて、優しくて、私は好きです。
初めてルバーブ・パイを食べたのは、あるフレンチ・レストランでした。「今日のデザート」がルバーブ・パイだったのです。ルバーブ・パイといえば、ローラのいわくつきのパイと、私の頭の中にはインプットされていましたから、すぐさま注文して、ワクワクしながら待っていました。当時の私は、ルバーブを食べたことも見たことなかったのです。そのルバーブ・パイは、イチゴをミックスしたもので、バニラ・アイスクリームがそえてありました。ひと口含むと、アイスクリームのトロリとした甘さと、ルバーブとイチゴの甘酸っぱさが口の中に広がって、そのおいしかったこと! すっかりルバーブ・パイのファンになりました。
私が日本に暮らしていた頃、今ほど外国のものが手に入らなかったこともあって、外国の物語に出てくる食べ物にすごく憧れました。見たことも食べたこともない食べものを、あれこれ想像するのが楽しかった。だから、空想の中でしか食べたことのなかったものを口にできたときは、感激もひとしおでした。今は何でも手に入って便利だけど、ワクワクすることも少ないのではと思います。
今ではルバーブ・パイというと、イチゴとミックスしたものが人気がありますが、十九世紀のパイは、たいていルバーブと砂糖だけのシンプルなものでした。ちょっと贅沢なものには、シナモンかナツメグを振りかけもの、あるいはバターやレモンの皮をまぜたものもありました。ひとつだけ、リンゴと半々のルバーブ・パイのレシピをみつけましたが、すっぱいリンゴを使うようにとあるので、すっぱいルバーブとリンゴのダブル攻撃です。
ルバーブパイには、ルバーブを生のまま焼くものと、少し火を通してから焼くものと二とおりのやり方があります。先に火をとおすと酸味が薄れるので、砂糖の量も控えめにします。ルバーブ・パイは、「これでもか!」というくらい、砂糖を入れるので、ダイエット中の方にはおすすめです。
パイ以外にも、ルバーブはジャム、マーマレード、プレザーブ、プディングなどにしたり、なかにはワインも作ったりしました。
私がルバーブパイを作っていたら、小学校四年生くらいの男の子がやって来て、「あっ、ルバーブだ!」と、さも嬉しそうにいうのです。「ルバーブ好きなの?」と尋ねると、「うん、大好き!」。「いつもどうやって食べるの?」ときいてみたら、スティック状に切って、お砂糖をディップにして食べるそうです。ほんとうにルバーブの好きな人は、みな、そうやって食べるのが好きみたいですね。その子は、残った端切れのルバーブを指さして、「これ食べてもいい?」とニコニコしながら言うので、「もちろん」と答えると、「今年、はじめてのルバーブだよ」と、いかにも嬉しそうでした。そんな風によろこんでもらえたら、ルバーブも嬉しいでしょうね。
こんがり焼けたルバーブ・パイが、ちょうど良い具合に冷めたところへ、十人くらいの語学研修のグループがやってきたことがありました。韓国や中東といったアジア系の人たちのグループで、ルバーブを知らない人が半分以上。そこでルバーブ・パイをふるまったら、もうみんな大喜び! その噂を聞いて、他のクラスメートたちがやってきたときには、もう一切れも残っていませんでした!