かあさんの羊飼いの人形(Ma's shepherdess)
かあさんの羊飼いの人形といえば「小さな家」ファンにはお馴染みです。「大きな森」からシルバーレイクに落ち着くまでインガルスと共に旅をしてきた、かあさんの大切な宝ものです。新天地に移住して家に落ち着くと、かあさんは真っ先に羊飼いの人形を飾りました。それは未開地にあっても、人間らしい暮らしを営もうとする、文明派のかあさんの誓いでもありました。
「小さな家」に繰り返し登場する羊飼いの人形は、かあさんが亡くなった後、どうなったのか、というのが「小さな家」ファンの長年の疑問でした。羊飼いの人形はかあさんが所持していたはずですが、とうさんとかあさんが暮らしていた家が売りに出されたときに、彼らの所持品は処分されました。その処分に立ち会ったのがキャリーだったので、キャリーが持っているのではと噂されていました。あれほどかあさんが大切にしていたものを、キャリーが処分してしまうはずはないだろうと。その噂どおりキャリーの他界後、遺品の中からそれらしき人形が見つかったというわけです。
その人形は現在、サウスダコタ州キーストーンの郷土史館に、キャリーの遺品や写真と共に展示してあります。ほんの十センチたらずのほっそりした人形で、ドライフラワーに囲まれたケースに入っていました。説明書きによれば、この人形はキャリーの遺品の中から見つかったものであること、デトロイト図書館に保存されているローラの手紙の「羊飼い娘の人形はキャリーが持っています」という記述と一致すること、一部が補修されているのでよほど大事なものだったと推測されること、この手の人形はかあさんの子ども時代によく見られたもので、おそらくかあさんは幼いころプレゼントにもらった人形を、結婚してからも大事にしていたと思われること、こういった事実から、この人形がかあさんの羊飼い娘の人形と推定されるとありました。
でも、キーストーンでこの人形と対面したとき、ガース・ウィリアムズのイラストの印象が強かったせいか、「これってホントにかあさんの羊飼いの人形かなあ?」というのが、正直な感想でした。でも、ウィリアムズは実物を見て挿絵を描いたわけではありません。そこで記念館の人形と「小さな家」の人形の描写をじっくりと比較してみました。原作によれば、ある巻では日除け帽子をかぶっていたり、別の巻ではエプロンをつけていたりと記述は少しずつ違いますが、矛盾する点はなく、基本的な人形の描写はどの巻も一致していました。それを総合してキーストーンの人形と比較してみた結果、かあさんの人形かと問われれば、答えは「?」というものでした。
金色の髪も、前でうち合わせるぴったりした胴着も、ちっちゃな靴も原作の描写そのままです。でも瞳は青くなく、日除け帽子もエプロンもつけていません。これを大目にみたとしても、決定的なのはスカートをはいていない点です。「小さな家」には「スカートが広がっている」という描写がありますが、どうみたってこの人形が履いているのは七分たけのズボンです。かあさんの子ども時代に、女の子の人形がズボンを履いていたとは思えません。ということは、この人形は、髪は長くても男の子なのでは・・・? これはヨーロッパで製造されたらしいということなので、もしかしたらヨーロッパの上流階級の男の子なのかもしれません。それに牧羊犬を連れていたり杖を持っているわけでもなく、白い服を着ているだけの人形がどうして羊飼いだとわかるのでしょう? ローラたちが「羊飼い娘」(原語はshepherdess) と呼んでいるからには、そう判断するに十分な特徴があったはずです。でも、この人形にはそれがありません。こんな風にいろいろ疑問はあっても、作品の描写と類似点もあるので、違うと言い切ってしまうわけにもいきません。ローラが『小さな家』を執筆したとき、かあさんの人形を目にしてから三十年以上も経過していましたから、ローラの記憶違いもあるでしょう。執筆の際に手を加えたとも考えられます。ですから「なんか違う」と思いつつも、そうではないとも言い切れないので「?」となってしまうわけです。アメリカのファンの間では、羊飼いの人形はローラが創り上げたもので、実在しなかったのでは?という人もいます。
かあさんもローラも逝ってしまった今となっては、羊飼いの人形の謎がとけることは永遠になさそうです。さて、皆さんはどう思われますか?
2008.07.15 | Comments(0) | Trackback(0) | コーヒーブレイク(coffee break)